2012年5月18日金曜日

感染症科初日 - コラレス通り1丁目


 いよいよ、感染症科がはじまりました。なんだかわくわくします。
 一月ごとにフェローのようにローテーションをしますが、4月はUNMホスピタルの病棟コンサルトです。Dr. Reedというフェローにつくようにと言われて、朝一番にポケベルを鳴らしましたが、彼女も今日が初日で何やらペーパーワークがあるらしく、連絡があるまで待機となりました。図書館にいって書きかけの原稿を書きあげました。

 12時前にDr. Reedから電話がかかってきて、まずは救急のコンサルトへ。中年男性のHIV患者で、うちのHIVクリニックでフォローされていますが、先週末に髄膜炎を疑われて、腰椎穿刺を受けています。その後から頭痛がひどいと。。。。腰椎穿刺後の頭痛でした。髄液も問題なく帰宅できそうです。

 12時半から回診なので、急いでカフェテリアにいって昼ご飯をテイクアウトして、アテンディングの部屋へ。でもまだいません。学生のEricaとも合流。彼女は新しいコンサルトを一人見ていて、そのプレゼンを聞きます。多発外傷後の膿胸で最近まで入院していた人ですが、呼吸不全を起こして戻ってきました。かなり複雑な病歴で、学生の手には完全に余っていましたが、足りない部分を補いつつH&P(病歴と身体所見)が完成。どうも表皮ブドウ球� ��のラインセプシスのようです。


働く新しいにきび治療

 アテンディングのDr. Iandiorio登場、まだ若いです。このチームも全員女性です。Dr. Reedが先ほどの症例をプレゼン。診断は問題ないですが、学生と僕のためにHIVについて簡単に解説してくれました。
・UNMではCD4<350で治療を開始する。
・この人はコンビビル(AZT/3TC)とエファビレンツ(EFV)を内服中。ヘマトクリットが42%で、一見正常だがここは高地なのでこれは貧血と見るべき。原因はAZTかHIVか?
・MCVが大きい。これもAZTでも起こりうるし、アルコールのせいかもしれない?
・今までの経過を見るとCD4は200前後で、ウイルス量は50以下で落ち着いていたのが、前回70まで上昇している、これは耐性を取られた可能性もあるし、一過性の上昇(blip)かもしれない。
 その後副作用について。本当にHIVは盛りだくさんです。

 そしてラウンドへ。今日の患者リストは9人でかなり少ない方。多いときは30人超える事があるらしい。。。
中年男性のMSSAの硬膜外膿瘍ドレナージ後、特に問題はないが、刑務所から来ており、帰り先がどうなるのかはっきりしない。「JAILってリスクになるんですか?」となにげに聞いたら、うんうんと学生まで大きくうなづいている。まず結核のリスクがあり、次に麻薬の静注のためにHIV、HepCのリスクがあり、レイプされる事があるのでこれもHIVのリスクだそうだ。こちらの刑務所はどうやら終わってますね。交通事故には気をつけよう。ついでにEricaが「自分の知り合いで、刑務所から出て来た友達の彼氏にレイプされてHIVを移されたという可哀想な男性を知っている」と言っておりました。家と病院以外のとこには行かないようにしよう。

 その次はMSSAの脊椎炎。特に問題なし。


子供のパイカ

 次は50代女性で子宮頸癌で拡大切除後に尿が腹腔内にもれたため、腎ろうをたてている女性の尿路感染。うーんヘビーです。困った事にVRE2種とESBLが検出されています。カテーテルが入っているので、抜かないといけませんが、状況的に今は抜けません。しかも子宮頸癌の化学療法が待っているので、しっかりたたく必要があります。それでどうするかというと、まずこのまま14日間治療した後に薬を終了し、1週間後に尿の検査をして判断。白血球を認めなければいったん治癒で終了。白血球を認めれば、泌尿器科に頼んで、なんとかカテを抜いてもらうということになりました。このような複雑なケースでも割とさくさくと方針を決めていきます。

 続いて骨髄炎と� ��膜外膿瘍、MI後に心室内血栓が出来たところに感染したIE、脛骨開放骨折後のプレート感染と続きました。プレート感染は脛骨なので取る事ができません。こういうケースは難渋します。これも人工物が入っているのと治癒出来ないことがあります。そうするとChronic suppurresionするかということになるんですが、それもちょっとうまくありません。局所に感染があるので骨が付かない可能性があります。この人の場合は、ニューキノロンに感受性があったので抗菌薬で出来るだけ叩いた後に、手術をしてプレートを取る、もしくは入れ替えるという方針で退院になりました。まずは3ヶ月程治療が必要です。


ビタミンの研究弱視を引き起こす

 この症例に関して、骨感染症の経口薬のオプションについてディスカッションしました。グラム陽性球菌ではST合剤、リファンピシン、グラム陰性桿菌ではニューキノロンが使えます。もし、この人の起炎菌がキノロン耐性だったらどうするかと聞いたら、仕方が無いので注射を続けるそうです。しかしアメリカでは自宅で静注が出来ます、だから患者さんはどのみち退院なんですね。骨感染症は専門のクリニックがあって、そこでフォローされます。

 さて、ここまでで5時でしたが、回診している間に2件コンサルトがありました。この場合、見に行ってとりあえず次の日までのrecommendationを出します。1人はHIVで肺結核治療中の人の呼吸不全、救急� �挿管になってICUに入っています。市中肺炎が疑われますが、HIVなので、当然PCPや真菌の可能性もあります。現在HAARTで3剤、抗結核薬が2剤すでに入っていますから、市中肺炎で2剤、PCP、真菌にそれぞれ1剤加えると、なんと9剤併用になります。おまけに薬の相互作用がある薬が多いので、副作用もえらく複雑です。こういうときは薬剤師さんの出番ですが、残念ながら今月はいないようです。結局真菌はカバーしないことになりました。

 次は腎移植後の人の肺炎。喀痰からMoldが生えているとの事。喀痰の真菌はほとんどコンタミですが、ルールアウトするのは難しいときもあります。この人もICUにいましたが、幸い市中肺炎の治療に反応しています。喀痰は肺炎球菌とインフルエンザ桿菌に加えてmold。この人は免疫抑制剤を� ��んでいますが、真菌のリスクは好中球減少なので問題ありません。このあたりは日本では「免疫不全」と十把一絡げにされることが多いので注意が必要です。どこが落ちているかで変わってきます。


 アテンディングにもしこの症例を初日にコンサルトされていたらどうするか?と聞いてみました。これだと経過の情報がないので、真菌のウエイトがあがります。答えは「やはり事前確率はそれほど高くないので、他に肺炎の原因となる菌があれば治療しない。しかしリスクはあることはあるので、もし他に何も生えずに単独で生えて来たら治療する。私とかあなたに生えて来たら治療しないわ」とのことでした。なるほど。

 ということで今日は5時半に終わりました。早い方だと思います。たった10例ですが、えらく勉強になりました。症例は濃厚ですし、アテンディングもフェローも教育的で熱心に教えてくれます。チームが小さいのも質問しやすくていいですね。今日だけで 今まで慢性的に悩んでいた事のうちいくつかが解決しました。いや〜、正直こんなに勉強になるとは思いませんでした。今までに煮詰まっていた分、学習効果が高いのかもしれません。アメリカに来てよかったです。今日は頭も一杯使って疲れましたが、これからのやる気は一段と高まりました。

(写真はフェローのDr. Reed、とっっっってもniceな人です)

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